「ただいまーっ」 さくらがはぁはぁ息を切らしながら自分の部屋に駆け入ってきた。 「おー、おかえりー。学校はどうやったー?」 座布団にちょこんと座っていたケルベロスが振り向いて応答する。 「いつも通りだったよ。それでね、ケホッエホッ」 「どうしたんや、さくら」 「ンフン、エヘン、何か、喉が・・・。風邪でもひいたのかな。」 「気ぃつけなあかんで、冬は風邪ひきやすいさかいなあ。どれどれ、熱はどうや?」 ケルベロスがさくらの面前に近寄り、額に手を当てようとした。その瞬間だった。 「エホッゴホッガハッ」 「うわぁっ」 突然さくらが大きな咳をかました。ケルベロスはその激しい咳の風に驚く。 同時に、何かが顔に付着した感触を覚えた。 「ご、ごめんケロちゃん。」 「お、おう、気にすんな。・・・・・・しかし、何やこれ。」 顔の付着物を手に取った。白く濁った球のようなプヨプヨした塊。 球を指で弄っていると、ふと潰れた。あれ、と思ったケルベロスが顔を近づけると、 「・・・く、くさ!!」 ケルベロスは涙目で叫んだ。さくらはびっくりしてどうしたのと訊く。 「さっきさくらがでかい咳した時に、顔に何ぞついたんや。 それを潰したら、ものすごう臭かったんや。」 「・・・それって、私の口から飛んできたと言いたいの? 私の口が臭いと言いたいの?」 さくらの顔に巨大な青筋が立った。ケルベロスは怯み気味に答える。 「お、おうそうや、まあそう怒らんと聞けや。あれは唾や痰みたいなんとはちごた。 ちょっと調べたるさかいに、口開けてみい。」 「・・・・・・あーん」 自分のことを侮辱されたようでムッとしたさくらであるが、ここは素直に口を開けた。 大きく開いたさくらの口の中をケルベロスが顔を乗り出して覗き込む。 瑞々しいさくらの口の中。綺麗に居並んだ歯がつやつや白く照る。 薄桃色の口腔粘膜が健康的で、口臭もそれほどきつくない。 あんなどぎつい悪臭のする物体が出てくる所とは到底思えないのだ。 「んー、わからんなあ・・・さくら、もっと喉の奥まで開けてくれんか〜。」 さくらは更に大きく口を開き、舌を下げて喉の奥が見えるようにした。 のどちんこが露出し、唾液の溜まった部分の粘膜が離れて太い糸を引かせる。 ケルベロスは先に増して顔を乗り出し、口の中を奥の奥まで覗き見る。 のどちんこの両脇に、ぷくっとせり出した物体が見えた。扁桃である。 ケルベロスはさくらの扁桃をじーっと見つめた。 「ん?」 よくよく見ると、扁桃の表面に白いポツポツがあるように見える。 ケルベロスは確信した。 「これや!これにちがいない!」 ケルベロスは昂奮して自らの顔をさくらの口の中に突っ込ませ、 さくらの歯に額がゴッツリぶつかってしまった。 「いった〜」「いた〜い」 「あたたた、わいとしたことが・・・て、そうやない、わかったでさくら!」 「ほえ?」 「やっぱりさくらののどから出たんや、のどの奥の扁桃腺に白いポツポツがあった!」 「ほ、ほえ〜〜〜!」 「さくら!これは何ぞの病気かもしれへん!今すぐ病院行くんや!」 こうして、さくらは耳鼻咽喉科のお医者さんを訪ねることになったのである。 |